えっと確か…名前と趣味と前のクラスだったっけ?


高鳴る鼓動を無理やり抑えながら、私はゆっくり立ち上がった。


みんな座ってるのに1人だけ立ってる時点で既に冷や汗止まんないよ〜…




「ぅ…はい…」



前を向いててもみんなの視線が私に集中してることが分かる。



うぅ、視線が痛い…




(そんなすごいこと言わないんだから、ジロジロ見なくていいのに…)


逆にみんな違う方向向いて聞いてないくらいが丁度いい…



引き腰だけど、ゆっくりと言葉を紡ぐ



「あの…藤崎 美桜です、趣味は…えっとぉ…本を読むことで…去年は1年A組でした…よ、よろしくお願いします…」



い…言った
やっと終わったぁ



クラスメイトの拍手と共に席につくと、一気に安堵が押し寄せる。




(みんなと同じ目線って落ち着く…)




そんな事を思いながら息を大きく吐き出すと、不安が空気中に溶けるようにスーッと消えていくのが感じられた。




(あとは…)




私はバレないように少しだけ目線を横に向ける



(この人の自己紹介だけか)



窓が少し開いているのか、そこからの春風によって茶髪が程よく靡く。



(なんか…綺麗?)



さっきからのこの感じ
気になるって言うか、自然と意識が向くって言うか…
なにか惹かれるんだよな、この人




まだ名前も知らないのに…





「まぁこれからわかるんだけど」

そう小さく呟いて、彼の自己紹介までざっと聞き流すつもりで私もそっと窓の外の桜を眺めていた。








そこからはテンポよく進んでいき、
クラス中がそろそろ飽きてきた頃、もしくは私がぼーっとヒラヒラ舞う桜を目で追っている時だった。



「はい次、32番の人」

「…はい」




低く、大きいわけではないけど、でもはっきりとした声が隣から聞こえる。




(あ…)




私がはっとして視界の焦点を合わせると同時に、彼が立ち上がる。



そして私は彼の名前を知ることが出来たのだった。