「ねぇ梓紗、私の隣の人って…」



耐えかねて梓紗に聞く。
すると、



「来たんじゃない?」


梓紗は椅子の背もたれに肘をつき、目線だけで教室のドアを見つめている。



「え?」



私も慌ててそっちを見る。



「あ…」



教室内の騒音の中をこちらに向かって歩いてくる男子生徒。

茶色で少しクセっ毛の髪、背が高くて黒のメガネをかけている彼は、なんとなく落ち着いた雰囲気を醸し出している。




「あの人…かな」



そう言い終わるか終わらないかで、彼は私の席の横で立ち止まった。



「あ…」

私が椅子を引いて後ろの机との隙間を作るやいなや、すっと私の後ろを通り抜ける。




そして私の隣に…




「ま、静かそうな男子ね」


梓紗が私にしか聞こえないくらいの小さい声でつぶやく。
けど、私の中にその言葉は届いていなかった。







(この人が…)




なぜだか、よくわからない。
たまたま隣の席になっただけなのに…
私はその男の子から、目が離せなかった。






(はっ…)




って、何見つめてんの私!
初対面なのに変な人って思われちゃうじゃない!


いきなりばっと顔を逸らす私を梓紗は不思議そうに見つめて、



「え…どうしたの?」

「い、いやなんでもない」



危ない危ない、バレてない…よね?


心配になってちらりと左を見てみたけど、あっちは全く気にしていない様子で、私の方を見向きもせずじっと窓の外を見ていた。