沙弓は掴まれた手首と拓人を見た。


「谷、もう一度プライベートで時間を取ってくれないか?」


「はい? もう何も話すことなんてないです」


「もっと谷を知りたいんだけど、デートでもしない? 俺のことも知ってほしいし」


「はい? 意味わかんないです」


どうしてここでデートしようと言ってくるのか全く理解できなかった。

そんな話の流れにはなっていない。沙弓は再度座って拓人と向き合う。


「今、ここで話す内容ではないだろ? だからさ、今週か来週にでもどう?」


「どう? と言われても、困ります」


「頼む。チャンスをくれないか? あとで連絡するから谷の都合のいい日を教えて。じゃ、よろしく」


拓人は、沙弓の返事を聞かないでミーティングテーブルから離れ、総務部からも出た。言い逃げかもしれないけど、ここで断られないためだ。