「確かに4月、5月の頃に比べたら余裕は出来ています。だけど、余裕を持たないと私だってミスをしそうで怖いんです」


忙しいと確認が疎かになって、ミスを起こしやすくなる。仕事においては完璧でありたいと思う沙弓にとってはある程度の余裕が必要だった。

それに余裕があるように見えていても沙弓の業務は他の部員よりも多い。

拓人は、沙弓の言葉に頷いて甘えすぎていたことを反省した。


「谷、ごめんな。谷がしっかりやってくれているから、つい甘えてしまったよ。そんなにも負担になっているとは思わなかった。本当にごめん」


真剣な表情で謝る拓人を見て、沙弓の心は少し傷んだ。悪気があったわけではないのは分かっていた。


「分かってくれるならいいです。とにかく……他の人を当たってください。お願いします」


これで人事部に行かなくてよくなった。沙弓は安心して、立ち上がろうとする。もう話は何もない。

しかし、拓人にはまだ話したいことがあった。だから、その場を去ろうとする沙弓の手首を掴む。