「なぎさ先生が帰った直後に、加納さんが喜多小を訪ねてきたの。仕事でこのあたりに来たから、大学時代に親しかったなぎさ先生と久々に会おうと思ったって。
わたし、なぎさ先生はジャズを聴きに隣の市の老舗のライヴハウスに行ったと答えてしまって」
加納は外見も外面もよくて、話をするのがうまい。
美香子先生は、わたしと加納が本当に親しかったと信じて、世間話程度にライヴのことに触れたんだろう。
文科省とはいえ外部の人だから、らみちゃんの事情は言及せずに、老舗のジャズのライヴハウスの件だけ。
申し訳ないな。
今ここにいる全員、面倒なことに巻き込んでしまっている。
ちゃんと話さなきゃ。
そう思って口を開きかけたとき、頼利さんが盛大にため息をついた。
「とりあえず、喉が渇いたし腹が減った。人心地つかせてくれ。ここ、飯屋なんだろ? 何か適当に食えるものを頼む。飲み物は、おれは車だから、冷たい烏龍茶。先生、あんたは?」
「……温かいお茶」
わかった、と言って、俊くんは立ち上がった。



