「音楽の授業で、その合奏の練習をしてるんですけど、らみちゃんが必ず楽譜をアレンジして太鼓を叩くんですよ。

音楽記号の読み方はわかってるのに、何度注意しても、楽譜どおりの演奏をしてくれなくて。でも、今、謎が解けました」


「そうか。らみはジャズの楽譜の読み方と演奏を当然のものだと思ってるから」


「去年までの音楽の成績も、なぜかひどく悪かったんです。歌も楽器も、ものすごくよくできるのに」


「なるほど。そいつはよくねぇな。音楽は、ジャズがすべてじゃねえ。いくらジャズが好きでも、合奏や音楽の授業ってのはまた話が違う。

小学生レベルだろうが何だろうが、まわりと同じリズムやグルーヴが作れる瞬間ってのは、まぎれもなく楽しい」


「そうなんですよ!」


おおぉぉ、わたし今、すっごく嬉しいぞ。

保護者としては身勝手で無責任なところのある頼利さんと、ちゃんと教育的な観点で合意できてる。

音楽って、すごい。


話し込んでるうちに、まわりのお客さんはほとんどいなくなっていた。

バンドメンバーやライヴハウスのスタッフと話し込んでるコアな人たちだけが、うっすら明るい地下のホールに居残っている。