「具体的な違いは、ピアノしかわかりませんでしたけど、何かさっきと印象が違うって程度には、全体を通して感じましたよ。
あ、ソロも、1回目と2回目で全然違いました。それもすごくよくわかりました。ジャズって、ものすごいギャップに満ちた音楽ですよね」
「そう、ジャズは、あんたの耳が感じたとおり、アドリブやアレンジがあって当然の音楽なんだ。
楽譜は存在する。でも、その楽譜を機械的になぞるんじゃつまんねえ。四分音符をメトロノーム的に刻む演奏は、絶対にしない。わざと揺らいだリズムをつけて楽譜を読む」
やっぱりそうだ。
その揺らいだリズムの存在は、今日これだけ長い時間、演奏を聴いていたから、やっとしっかり体感できた。
演奏の始めのカウントから揺らいでいた。
「O-ne, tw-o, o-ne, tw-o, thre-e, 」と、1拍のうちに、行って帰る波があった。
その波が曲を通して保たれて、強いリズム楽器を持たないクラシックとも、エイトビートが支配するロックとも違ったグルーヴを生み出していた。
「らみちゃんが音楽の時間に披露する演奏、ジャズだったんだ」
「は? 何だそれ?」
「らみちゃんが合奏で太鼓とシンバルを担当するって話、聞いてます?」
「ああ、聞いてる。来月の授業参観で演奏するって」



