頼利さんがわたしの顔をのぞき込んでいる。
「ボーッとしてねぇか? ぶっ通しでここに居続けんの、疲れたか?」
「疲れないほうがおかしいですって。ビッグバンドのジャズって、ものすごい情報量ですもん。受け止めてたら、ほんと、ふらふらになっちゃう」
「きついんなら、聞き流しゃよかったのに」
「そんなもったいなくて失礼なこと、絶対できません。世界的なバンドの演奏を、息継ぎの音が聞こえるくらいの目の前で聴けるチャンスって、めったにないでしょう?
お誘いいただいて、本当にありがとうございました」
頭を下げて顔を上げたら、頼利さんが目を丸くしていた。
わたし、何か変なこと言った?
首をかしげると、ふっと頼利さんの表情が緩む。
笑ったんだ。
びっくりするほど柔らかく、笑った。
「どういたしまして。ハマってもらえたんなら、連れてきた甲斐があったってもんだ。
らみはガキのころから、こういう音楽で耳を鍛えてる。音楽といえばジャズってくらい、らみの中にはジャズが染み付いてんだ」
不意にピンときた。
らみちゃんが楽譜どおりの四分音符を演奏しない理由。
「ジャズって、アドリブを尊重する音楽ですよね? 同じ楽譜を演奏する場合でも、1回目と2回目は違うアレンジをする。その場でアレンジを組み立てていくのが、ジャズっていう音楽でしょう?」
「ああ。今日のライヴ、1回目と2回目で違うアレンジになってたこと、聞き分けられたのか」



