ママにチクるぞって、小学生男子には最強に効く脅しだ。
加納の顔からも、サッと血の気が引いた。
ふぅん、やっぱママが怖いわけね。
まあ、この人がお金持ちなのは、ママの実家が資産を持ってるからだしね。
加納ママは、息子よりは常識的な人だったんだよね。
お金持ちなんだなーっていうズレは確かにあったけど、加納ほどあからさまなダメ貴族じゃなかった。
何かあったらチクってやるって、わたしは本気だ。
もしかしたら、すでに加納ママは知ってるかもしれないけど。
頼利さんは、テーブルの上の伝票を拾い上げた。
3人ぶんのドリンク代、締めて1800円なり。
「払っといてやるよ。お坊ちゃんは、気の済むまでポール・モーリアを聴いてな」
「ま、待て……ぼくは、納得していない。きみは本当に、か、彼女の……」
頼利さんがテーブルに手を突いて、加納のほうに体をかがめた。
顔を近付けて、トーンを落とす。
「あんたの目、節穴かよ? わざと見える位置にマークまで付けておいたのに、察しろよな。
さっきの喫茶店であんたと別れた後、おれがなぎさと何してたか、わかんねぇか? あんたみてぇなやつが現れると、男は心配するだけじゃなく、嫉妬もするんだぜ」



