「つまり、わたしはあなたが嫌いだって意味です。嫌いなんです。わたしの前に現れないでもらいたいくらい、嫌いです。
付き合うなんて、ましてや結婚するなんて、冗談じゃない。わたしは、あなたが嫌いです」
生まれて初めて、面と向かって他人に「嫌い」と言った。
先生の陰口でも有名人のゴシップでもなく、目の前にいる人間に対して「嫌い」と。
加納が愕然としている。
そりゃそうだろう。
ここまでハッキリ「嫌い」を連発される経験なんて、したことないだろうし。
頼利さんが笑って席を立ちながら、わたしの頭をぽんと優しく叩いた。
「よく言った。今のを聞いてて、おれも安心したよ。楽しいもんをアレンジするのは、おれの十八番だ。一緒に行こうぜ、なぎさ」
差し出された手を、わたしは握った。
わたしも立ち上がって、加納にトドメの一言をぶち込む。
「婚約者さんのこと、大事になさってくださいね。
わたし、あなたのおかあさまの連絡先だけはまだアドレス帳に残していますから、今後、もし何かあったら、真っ先にご報告さしあげるつもりです。
一連のメールも留守録も、ちゃんと保存してありますし」



