曲の進行、たどるべき道筋は、最初からある。
ハ長調、イ短調、ト長調、そしてハ長調に戻るワンセット。
その約束の中で、原曲のメロディラインを残しながら、ちょっとあり得ないいたずらを突っ込んでみる。
思いっ切り高音で、きらびやかなトリル。
サーフィンみたいに勢いよく鍵盤の上を滑ってきて、次の小節ではわざとおとなしく原曲のメロディを。
同じ手は繰り返さずに、予想を裏切るのがカッコよくて、目いっぱい訛りのきついスウィングに乗って、心と魂が望むままに、がぉーってピアノで吠えてやる。
わたしはずっとジャズを弾いてみたかったんだぞ、がぉーっ!
頼利さんが笑ってる。
正確なリズムキープと、要所要所で挟まるオシャレなフィルイン。
力んでなくても力強い。
右手は上から、左手は下からスティックを握る、独特の癖。
乾いてなくて柔らかいのが、頼利さんの音だ。
まるで大きな手のひらみたいに、その音にすがって踊ったら、初心者マークのわたしでも転ばずにクルッと回ることができる。
ここから盛り上がっていくぞと、曲の大波を呼び寄せるときは、キレのある音と動きがカッコいい。
ドキドキしてテンションが上がって、よしやってやるぞと、わたしもありったけの想いを音にしてぶつける。



