「ほんとに、とことん弾いてもいいんですか?」
「手を傷めねぇ程度にな。この間のライヴ聴いてて気に入った装飾に挑戦しようとか、こういう音を入れて遊んでみたいとか、好き勝手にやってみろ。
少々つまずいた程度で演奏を止めるなよ。おれはずっと叩いとくから、そこに乗っかってりゃいい」
「はい! よろしくお願いします!」
いきなりうまくできるわけないって、それは重々承知。
難しいけど不可能じゃないって、それさえわかれば大丈夫。
成長途上の子どもたちをいちばん近くで見てる教師のわたしは、いつも彼らがうらやましい。
やればやるほど伸びていくし、手当たり次第にチャレンジできる。
夢中になれる「未知のもの」が、とにかくたくさんある。
今、久しぶりに、わたしは子どもの心に返ってる。
「O-ne, tw-o, o-ne, tw-o, thre-e, 」
頼利さんのカウントに合わせて、そのスウィングで、わたしの指は踊り出す。
初めてのジャズ。
楽譜にないリズムでステップを踏んで、思い付くままのアレンジでターンして、勢い余ってちょっとつまずいて、ドラムに引っ張られて転倒を免れて。
わたしにしか弾けない、今この瞬間にしか弾けない『渚のアデリーヌ』が、少しずつ姿を現していく。
勝手なアレンジを許してください、ミスター・クレイダーマン。



