「あの人といると、自分が何もかも劣ってることを痛感するんです。だから、大学時代は劣等感ばっかりで押しつぶされそうでした。
後になって振り返ってみたら、その劣等感の正体が何だったのか、結局よくわからないんですけど」
「昔の話だと片付けたつもりになってたんだろうが、洗脳、解けてないじゃねぇか」
「ですね」
「話してみろよ。あいつに何を言われた? あいつはどんな人間だ? 第三者に聞かせるうちに見えてくるもんもあるだろ」
頭をよぎった言葉がある。
加納が軽蔑するように吐き出した言葉だ。
のろけ話などくだらない、と。
男女交際のようなプライベートな話を他人にひけらかす神経が理解できない、と。
自慢だろうが愚痴だろうが、いずれにしても個人情報を他人に漏らすのは弱みをさらすことにほかならない、と。
そうですよねと、うなずくことしかできなかったわたしは、大学の友達に加納と付き合ってることを打ち明けられなかった。
わたしに彼氏がいることさえ知らなかった友達もいる。
美香子先生に話さなかったのも、たぶん、あのころの刷り込みのせいだ。
本当は、話していいはずだ。
わたしが言葉にしたい事柄は、のろけでも自慢でもなく、愚痴よりもたぶん根が深い。
弱みをさらすことになったとしても、わたしには、そこに付け入って攻撃する敵よりも、それをカバーしてくれる味方のほうが多い。



