☆.。.:*・゜
ひとしきり泣いて、落ち着いた。
目も鼻も真っ赤になってるだろうけど、とりあえず涙は止まった。
「あの、上條さん」
「あ?」
「ジャズ、かけてもらえませんか? ビッグバンドの、にぎやかな音のジャズ」
「わかった」
ちょうどのタイミングで赤信号に引っ掛かった。
頼利さんはハンドルから手を離して、カーオーディオのCDを入れ替える。
意外に丁寧な手つきを眺めるうちに、ファンファーレみたいに華やかなトランペットがスピーカーから流れ出した。
シンバルの音を追い掛けて、揺らいで弾んだリズムを体に馴染ませる。
強張った肩から、するりと力が抜けていく。
「同じジャズなのになぁ」
「さっきの店で掛かってた音楽のことか?」
「気付きました?」
「いや、さっきは耳に入らなかった。あの喫茶店ではピアノソロのジャズだけ流すって知ってただけだ」
信号が青になる。
ぐぅん、と優しい加速度。
横顔の頼利さんは眉間にしわを寄せている。
「ご迷惑おかけしてばっかりで、すみません」
「だから、謝んなっての。あんたは悪くねえ。
らみが言ってたとおりだ。喫茶店でのあんたは、あの男に洗脳でもされてるように見えた。異様だったぞ。付き合ってる間、ずっとあんなんだったのか?」
洗脳。
強烈な言い回しだけど、案外、正しいのかもしれない。



