スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―



☆.。.:*・゜


「失望しないで聞いてほしい。実は、ぼくは今、ずいぶんと愚かな状況に陥っているんだ」


条件反射的にベネズエラを注文したわたしの前で、加納は眉をひそめて、苦悩の表情を浮かべてみせた。

年齢を重ねた今、以前よりも頬やあごの線に太さが増して、ギリシャ彫刻みたいな容貌に精悍さが加わっている。

苦悩の表情は、絵に描いたように似合っていた。


前置きを口にしたきり、加納は黙り込んだ。

わたしのコーヒーが運ばれてくるのを待っているんだろう。

話を中断されるのが嫌いな加納は、語り始めるタイミングを注意深く選ぶ。

それと、沈黙を埋めるBGMが好みの店も、加納にとって重要だ。


エンパヰヤは、ジャズ。

ピアノだけで演奏される、加納には弾けてわたしには弾けない、高尚な音楽。


観葉植物で巧妙に隠されたスピーカーから、物憂いリズムと小難しいフレーズが流れている。

メロディラインも和音の構成もアクセントの付け方も、クラシックとは違って予測不能で、気位が高いように感じてしまう。


変だな。

ウォーターサイド・ジャズ・オーケストラのジャズは、同じく予測不能だったけど、もっとずっと気さくだった。

奇をてらうのは、子どもが楽しいいたずらを仕掛けるみたいで、わたしは驚かされてわくわくした。


今は少しもわくわくしていない。

音楽の形をした難しい芸術が、わたしの両耳の間をすり抜けていく。