「俊くんには、大学時代も助けてもらったことがあったね。叱ってもらったというか」
「あのときのなぎちゃんの様子も、ずいぶんおかしかったからな」
眼鏡を掛け直した美香子先生が小首をかしげた。
よかったら話を聞かせて、と無言で促すまなざしに、わたしはうなずいた。
「加納と付き合ってる間、わたし、だんだん飛梅に来なくなっていってたの。加納に嫌がられるから。
わたしが自分で自分の食事をどうにかしないことと、俊くんが飛梅にいること、両方が加納にとって許せなかったらしくて」
あのころ、わたしは夕食をどうしていたんだろう?
加納におごってもらうこともあったけど、多くても週に1回だったと思うし、自分で料理していたんだろうか。
よく覚えていない。
でも、加納に料理を作ってあげたことも、加納に作ってもらったこともない。
必要ないって言われたことは覚えてる。
加納の家は専属のシェフがいて、料理は下働きの人間がやるものだって、家族全体でそういう認識らしかった。
母の味というのを持ってない人だった。
何にしても、加納からは俊くんに近寄るのはダメと指示されていたから、わたしはそれに従っていた。
俊くんにしても、少し派手なグループに入っていて、若干荒れているように見えた。
要するに、不良っぽくて近寄りにくい雰囲気だったんだ。



