膝を抱えて顔を伏せて小さくなったわたしの頭に、不意に、温かいものが載せられた。


「落ち着け、先生」


頼利さんがささやいた。

その距離が近い。

だから、頭の上の温かいのが頼利さんの手のひらだってわかった。

手のひらは、なだめるようなゆっくりのリズムで、ぽんぽんとわたしの頭を優しく叩く。


何なんだ、この人。

荒っぽいくせに、手だけはやたら優しい。

らみちゃんになった気分だ。

大きな手のひらに、無条件に体の力が抜けていく。


わたしは顔を上げた。

美香子先生がカットソーを脱いで、シンプルなTシャツ姿になるところだった。

美香子先生はにこっとして、襟足で結んだ髪をほどいて、頭のてっぺん近くで結ぶポニーテールにし直した。

トレードマークの眼鏡を外す。


何するんだろう?

疑問に思った次の瞬間、美香子先生はいきなり、座敷から上半身を乗り出して俊くんを呼んだ。


「俊さぁん、おなか減りました。お弁当、今ここでいただいてもいいですか?」


バイトの子にお弁当を持って帰ってもらおうとしている、という俊くんの筋書きに話を合わせているんだ。


美香子先生は若く見えるし、身軽なTシャツ姿だから、バイトを名乗っても押し通せる。

もし加納が、夕方に会話した美香子先生を覚えていても、髪型を変えて眼鏡を外した今の姿は、別人に見えるはずだ。