「きみは確か、矢島なぎさの幼なじみだったな? 彼女がこの店に来ていないか?」
加納の声に、わたしはビクリと体をこわばらせた。
俊くんが少し笑って加納に答える。
「小学校の先生は普通、こんな遅い時間帯に居酒屋のような場所でとぐろを巻いていたりしませんよ。平日ですよ?」
「そうだろうか? つい20分ほど前、あるライヴハウスのそばで彼女を目撃したんだが」
「だったら、まだその近辺にいるんじゃないですか? とにかく、今日、うちはもう店じまいしてますから」
「きみが手にしているのは、客用の弁当か何かだろう。誰か店内にいるはずだ」
「ああ、これですか? バイトの子に持って帰ってもらおうと思って。明日は定休日なので、材料を余すと、悪くなるかもしれないんです」
「バイト? 本当に? 彼女が来ているんじゃないのか?」
「違いますよ。今日はなぎちゃんの姿を見ていません」
押し問答になりかけている。
加納が店内に入ってきたら、わたしはすぐに発見される。
怖い。
体が震えて、歯がカチカチ鳴ってしまいそうで。



