とはいえ、らみちゃんがいきなり筋道立てた説明なんか始めたら、むしろ怖いけど。
案の定、らみちゃんはわたしの言葉に応えず、わたしの腰に抱き付きながら、ウェイターさんを満面の笑みで見上げた。
「この人、あたしの学校の先生なの! 矢島なぎさ【やじま‐】先生っていうの! あたしと同じ髪の毛で、かわいいでしょ!」
「同じ髪型、ですね。そうですね、似合っていますよ。もうすぐジュースが来るから、お席に戻ってください」
「はーい! 先生、行こう!」
ウェイターさん、らみちゃんをあっさり操縦するとは、あなどれない。
もしかして子持ち?
難しい子との付き合いに慣れてらっしゃる?
疑問たっぷりにウェイターさんを見つめたら、慇懃無礼な笑顔が返ってきた。
「ミュージシャンには個性的なかたが非常に多く、付き合いが難しいのですが、らみちゃんは子どもらしく正直で、非常に素直な女の子ですから」
読心術まで心得ていらっしゃる。
らみちゃんさえ、ミュージシャンの皆さんよりはマシだと?
想像つかないわー。
どうやらこのライヴハウス・デュークは魔窟のようです。
わたしは、らみちゃんに手を引かれて席に着いた。
小さなテーブルを挟んで2つの椅子が置かれてたところに、小柄なウェイトレスさんがもう1つ持ってきた。
この席の配置って、つまり、らみちゃんには同行者がいるってことだ。
さっきの芸能人並みのイケメンが来るんだろうか?



