「美姫ちゃん、こっち」
駅の改札を出てきょろきょろあたりを見回していると、先に着いていた仁織くんに声をかけられた。
声が聞こえたほうに顔を向けると、改札の先にある駅の出入り口で、にこにこ笑顔の仁織くんがあたしに手を振っている。
そんな彼の脇には、部活の合宿か修学旅行にでも行けそうなエナメルの大きなスポーツバッグが無造作に置いてあった。
何だろう、あの大荷物。
仁織くんのかな……?
不思議に思いながら、早足で彼に歩み寄る。
「おはよう」
「おはよう、美姫ちゃん」
あたしが声をかけると、仁織くんが置いていたスポーツバッグを持ち上げた。
「これからどこ行くの?」
昨日ちょっと調べてみたけど、この駅の近くにはショッピングモールも映画館もない。
駅から離れたところにカラオケがあったり、ドーナツやハンバーガーの店がぽつぽつあったりするみたいだけど、このあたりは低層のアパートや一戸建てが立ち並ぶ住宅街だ。