動揺を悟られないように澄ました声で訊ねたら、仁織くんの明るい声が返ってきた。
「明日?」
デートの約束のこと、だよね。
内心ドキッとしながらも、わざととぼけてみせる。
すると仁織くんの不満そうな声が聞こえてきた。
「えー、忘れてる?この前助けたお詫びにデートしようって約束したじゃん」
「あー、そういえば」
「そういえばじゃないし」
受話器越しに届く声を聞いていると、仁織くんの拗ねた顔が思い浮かんで可笑しくなった。
「美姫ちゃん、何笑ってんの?」
クスッとたてた笑い声が、仁織くんに届いていたらしい。
「何でもない」
「ふーん?」
不審げにそう言ったあと、仁織くんがもう一度どこに行きたいか訊ねてきた。
「どこでもいいよ」
投げやりに聞こえないように気を付けながら伝えると、受話器の向こうで仁織くんが笑う気配がした。
「わかった。じゃぁ俺が決めていい?」
「うん」



