永尾先輩の姿が見えなくなると、仁織くんがぱっとあたしを振り返る。
「美姫ちゃん、大丈夫?」
心配そうにあたしを見つめるダークブラウンの瞳。
その光の優しさにどうしようもなく安堵しているくせに、それを素直に認められなくて彼から目をそらしてしまう。
「大丈夫だけど……どうして高等部の敷地内に入ってきてるのよ」
横を向いてぼそりと言葉を返すと、仁織くんがほっとしたように息を吐いた。
「校門の前で待ってたら部活中の美姫ちゃんの友達らしき人が近寄ってきて。『美姫が3年の先輩にどっか連れて行かれた』って教えてくれたから」
「だからって、中等部の生徒が勝手に高等部に入ってきていいの?」
「だって、心配だったから。俺、まだ告白の返事もらってないのに、その先輩に美姫ちゃんのこと横からさらわれたらどうしようって」
仁織くんが不貞腐れて剥れた横顔が、小さな子どもみたいで可愛い。
彼の言葉や仕草が、妙に擽ったい。



