それなのに……
「俺、美姫ちゃんの彼氏です」
ぐっと顔をそらして永尾先輩を見上げた仁織くんは、驚くほど堂々とした声でそんなことを言って退けた。
「え?かっ……ぐっ……」
彼氏ってどういうこと……?
仁織くんの言葉に反応しようとしたら、さりげなく一歩後ずさった彼に、余計なことを喋るなと言わんばかりに踵で思いきり足を踏まれた。
苦痛に顔を歪めて声を押し殺すけど、仁織くんを睨んでいる永尾先輩はあたしの挙動不審さには気付かない。
「は?お前、うちの学校の中等部だろ?」
「そうです」
「彼氏ってどういう意味だよ」
「そのまんまの意味です」
怖い顔の永尾先輩に、仁織くんが余裕げににこりと笑ってみせる。
その様子を、あたしは足の痛みに耐えつつドキドキしながら見守った。
「そのまんまって、お前人をバカにしてんの?今美姫ちゃんフリーだって聞いたんだけど。なのに、どうして中学生が彼氏名乗ってんだよ」
永尾先輩が、仁織くんを見下ろしてバカにするように笑う。



