永尾先輩の話なんて聞かずに彼の元を走り去りたい気持ちでいっぱいだったけど、がっちりと手首をつかまれていてそうもいかない。
いやいや引きずられるようにして歩きながら、永尾先輩に連れてこられた場所は体育館の裏だった。
体育館ではもう部活が始まっているらしい。
生徒たちのかけ声や床にボールをつく音が、体育館から外に響いてきていた。
体育館の外壁を背にして立ったあたしを、永尾先輩が振り返る。
背の高い彼が人の顔を覗き込むようにして見下ろしてくるから、なんとなく一歩後ろに後ずさってしまう。
そんなあたしの反応をどう思ったのか、永尾先輩は口端を引き上げて意味ありげににやっと笑った。
「美姫ちゃん、実際にそばで会ったら予想以上に可愛いね」
あたしに話しかけてくる永尾先輩の言葉は、とても軽い感じがした。
女子に人気のある先輩だし、そんな人から可愛いなんて言われたら普通は舞い上がっちゃうのかもしれない。
ちょっと前のあたしだったら、舞い上がるまではいかないまでも少しはドキッとしていたような気がする。
だけど、自分でも驚くくらい永尾先輩の言葉に心が動かなかったし嬉しいとも思えなかった。



