仁織くんに気付かれないうちに、と早足で裏門のほうへと歩き出す。


「ねぇ、藤村 美姫ちゃんだよね?」

そのとき、誰かに背後から名前を呼ばれると同時に手首をつかまれた。


急いでるのに、何?

怪訝に思いながら振り返ると、そこにはどこかで見たことがあるような気がする男子生徒が立っていた。

誰だっけ……

しばらく考えて、ようやく彼が誰だか思い出す。

そうだ、この人。

体育祭のときに実行委員長をやってた3年の先輩だ。

仕切り方がうまい、統率力のある人で、体育祭を例年以上に盛り上げていた。

とびきりかっこいいってわけでもないけど、体育祭の実行委員長として全校生徒の前に立っていた彼は、妙にカリスマ性があった。

明るい茶色の髪にはっきりとした目鼻立ちの彼は、総体的にはかっこいい部類に入る顔だと思う。


名前は確か。

永尾先輩……?だったっけ。

体育祭での活躍が印象的だったからか、そのあとで2年生の女子たちの人気をやたらと集めてた。

その人が、あたしになんの用事だろう。

評判で顔と名前は知ってるけど、彼とは全く面識がない。