「ほら、なんだっけ。ご主人様の帰りをいつも待ってたっていう有名な犬」
「忠犬ハチ公?」
「そうそう、それだ」
ふーたんはパチンと手を叩くと、ふはっと声をたてて笑った。
「美姫のこと、一生懸命探して可愛いじゃん。ストーカー継続中かな」
「違うって」
完全に仁織くんとあたしの置かれた状況をからかって楽しんでいるふーたんを、軽く横目で睨む。
だけどあたしの睨みつける攻撃なんて、ふーたんには全く効かない。
「じゃぁあたし、部活行くね。ジャノンボーイによろしく。バイバーイ」
明るく笑って手を振ると、体育館の方に駆け出していってしまった。
よろしくって言われても……
まだあたしに気付いていないらしい仁織くんを見やってため息をつく。
このまま校門を出て彼に見つかったら、また流されて一緒に駅まで帰ることになるのかな。
この間みたいに付きまとわれるのも、無理やりデートみたいなことさせられるのもちょっと面倒。
だけど、それがどうしようもなく嫌なわけでもない。