「彼氏……は、今はいないかな」
「えー、でも絶対モテるでしょ?いっぱい告白されてそう」
夢羽ちゃんに言われてふっと一瞬だけ思い浮かんだのは仁織くんの顔だった。
屈託のない笑顔や、笑ったときにクセのあるダークブラウンの髪がふわりと揺れること。
そんなことが急に鮮明に思い出されて、自分でも驚いてしまう。
「別にモテないよ」
頭に浮かんだ仁織くんの残像を打ち消すように、笑いながら首を横に振る。
そうしたら、夢羽ちゃんの隣に座っていたもうひとりの弟、玲皇があたしを指差しながらケラケラと笑った。
「口の周りにあんこいっぱい付けてるやつがモテるわけねぇじゃん」
「うるさい」
バカにするように笑ってくる玲皇を睨むと、手の甲で口の周りを拭う。
ほんとに理皇も玲皇も中学生になって、ますます生意気なんだから。
昔は、もっと素直で可愛かったのに。
同じ年だっていうのに、うちの弟たちは仁織くんとは全然違う。



