「だから、そんなじっと見ないでよ。ドキドキするから」
指の隙間から恥ずかしそうにあたしを見る仁織くんの仕草に、胸の奥がキュッと鳴る。
何言ってるんだ、この子は。
先にちょっとドキドキさせてきたのはそっちじゃない。
抗議するようにじっと見ると、仁織くんが右の手も額にあてた。
「どうしよう。やっぱ、美姫ちゃん可愛い」
独り言みたいに。
でも、ちゃんとあたしに聞こえるように仁織くんがそんなことを言ってくるから、反応に困ってしまう。
容姿に対する褒め言葉をかけてくれる男の子は、どちらかというと多いほうだった。
それなのに、弟たちと同い年の男の子の言葉にいつになく戸惑ってしまうのはどうしてだろう。
困って仁織くんから視線を外すと、彼があたしに向かってぽろりとこぼす。
「美姫ちゃん、俺の初恋なんだ」
はにかむように笑った仁織くんの、癖のある髪がふわりと揺れる。
彼の口からこぼれたその言葉は、口にした本人が思ってる以上の力であたしの心を揺さぶった。



