「付き合ってたから?彼氏とだったら駅まで一緒に帰るの?」

無言で睨みつけると、仁織くんがやっぱり軽い口調でそう訊いてきた。


「悪い?」

「悪くない」

仁織くんがあたしを見ながら口角をきゅーっと引き上げて笑う。


「彼氏と一緒に帰れるなら、彼氏候補の俺とも一緒に帰ってよ」

「候補って何?」

「だって、考えといてって言ったでしょ?あ、もちろんいい返事のほうで」

屈託のない顔で笑う仁織くんを数秒真顔で見つめてから、あたしは無言で視線をそらした。

そのまま彼から距離をとって他人のフリをして歩き出す。

だけど、それくらいで彼がめげるはずなんてなく……


「あ、待ってよ」

すぐにあたしを追ってくる。

どれだけ無視してもピタリとあたしの隣をキープして歩き続ける仁織くんは、躾けられた忠実な犬みたいだ。


「ついてこないでよ」

「じゃぁ、一緒に駅前寄ろ?」

全力で拒絶しているつもりなのに、そんなことはお構いなしで誘ってくる仁織くんの気が知れない。