仁織くんに携帯番号を教えたのは一週間ほど前。

あんなにしつこく「教えろ、教えろ」と付きまとってきたくせに、番号を教えてから彼から電話もメールもこなかった。


なんだ、やっぱり本気じゃなかったんじゃない。

本気じゃないならあたしの個人情報を返せ。

無駄に連絡先を教えてしまったことに若干苛立つと同時に、連絡がないことに少しほっとしていた。

そんな矢先に、また仁織くんが突然あたしの目の前に現れた。

本当に、何を考えてるんだこの子は。


「携帯教えてもらったから連絡しようかと思ったんだけど、いざ電話とかメールしようと思うと緊張しちゃって。どうせ高等部は隣なんだし、こんなことで悩むくらいなら直接会いに行ったほうが早いよなーって」

眉間を寄せてじっと睨むと、仁織くんがにこっと笑った。


「それで、来ちゃった」

無邪気にそう言う仁織くんの笑顔がやたらとまぶしくて、一瞬くらっとする。

来ちゃった、じゃないし。

なんか、頭痛い。

額を押さえながら、そっと手首をつかむ仁織くんの手をほどく。