「にしきー、何してんの?お前バス通学だから、帰り道逆方向だろ」

歩を速めて仁織くんとの距離をとろうとしたとき、後ろのほうから男の子の声がした。


「あー、燿。そうだけど、今先輩口説いてんの」

あたしの隣で後ろを振り向いたらしい仁織くんの口から、聞き捨てならない言葉が漏れてぎょっとする。


「ちょっ……」

焦って振り返ると、中等部の濃紺の学ランを着た男子生徒と同じく中等部の紺のセーラー服を着た大きな目の可愛い女の子が仁織くんの斜め後ろを並んで歩いていた。


「あー、この前の?」

一瞬考え込むように眉を寄せた男の子が、すぐに何か思い出したようにぽんっと太腿のあたりを叩く。

よく見たら、彼は仁織くんと初めて会ったとき彼を呼びに来た子っぽい。


「また明日なー。頑張れ、にしき」

「にしきくん、バイバイ」

「おう、また明日」

仁織くんが必要以上に大きな声でそう言って通り過ぎていく。

手をあげて笑顔で手を振る仁織くんも、その場でやたらと目立ってた。