放課後。
部活に出るふーたんと別れて、携帯を片手にぶらぶら歩く。
「あ、美姫ちゃん。やっと出てきた」
どこかで聞き覚えのある声に、ぶるっと背中に震えが走る。
嫌な予感がして顔を上げると、高等部の校門の前で仁織くんが満面の笑みで手を振っていた。
高等部の敷地ではめったに見かけることがない、うちの学校の中等部の濃紺の学ラン。
物珍しげに高等部の生徒にじろじろと見られているというのに、仁織くんは顔をあげて堂々と立っている。
どうしてここに……?
仁織くんと顔を合わせるのは、購買で声をかけられて以来1週間ぶりだった。
「彼氏に立候補していいか?」という突然の告白を受けてから1週間。
今度会ったときに返事を聞かせろと言ってきた割に、仁織くんがあたしの前に現れることはなかった。
だから、中学生の一時的な気まぐれだったのかなとほっとすると同時に、彼から受けた告白のことなんてすっかり忘れてしまっていた。
それなのに、どうして今頃?
あたしは携帯に視線を落とすと、気づいていないふりをして仁織くんの前を通り過ぎることにした。