「いや、だから……昨日のあたしの話聞いてた?あたし、今は彼氏作る予定もないし会ったばかりの人に連絡先なんて教えられない」
メモった参考書の名前を確かめるために出していた携帯を慌てて後ろに隠す。
「美姫ー?」
そのとき、ふーたんがあたしを呼んだ。
参考書の名前をなかなか教えないあたしを不審に思ったっぽい。
「ごめん、今行く」
ありがとう、ふーたん。
助かったとばかりに仁織くんに背を向ける。
構わず歩き出そうとするあたしを、仁織くんが追いかけてきて隣に並ぶ。
ぎょっと身を引いたあたしの目に、全くめげていない様子の仁織くんの笑顔が映る。
「じゃぁ、今度でいいや。もうちょっと顔見知りになれたら番号教えてね」
そう言って、仁織くんはあたしを追い抜いていく。
「バイバイ」
そうして振り向きざまに手を振ると、中等部の校舎のほうに歩いて行った。



