「それを言うなら、美姫ちゃんのほうが今まで何人も付き合ってるんだし、キスとか……そういうの、絶対俺より経験あるでしょ」
あたしを見つめる仁織くんの瞳は、責めるでもなく、非難するわけでもなく。
ただ冷静だった。
そこには、あたしのそれと違って、嫉妬の色が微塵も含まれていない。
そのことに、深く傷付いた。
「そんなの、知らない」
「そんなこと言ってたら美姫ちゃん、これから誰とも付き合ったりできないじゃん」
突き放すように冷たくそう言ったあたしを、仁織くんが幼い子どもを諭すような目で見つめてくる。
冷静なその態度に、仁織くんのくれる「好き」とあたしの想いにはきっと温度差があるのだと哀しくなった。
「付き合わないよ。あたしは今後、仁織くん以外の誰かと付き合うつもりはない」
「美姫ちゃん?」
あたしの名前を呼んだ仁織くんが、戸惑うようにゆっくりと瞬きをする。
あたしの話に追いつけない。
そんなふうに、困って眉根を寄せる彼を見つめて、あたしは唇を強く噛み締めた。



