「あ、美姫。今、家?」

ふーたんから電話がかかってきたのは、学校を出てから1時間ほど過ぎた頃だった。


「あー、うん……」

曖昧に頷いて、窓の外に視線を泳がす。

裏門から学校を出たものの、仁織くんのことが気になっているあたしは、そのまま電車に乗ることができなかった。

校門の前に置いてきた彼のことが気になって仕方ない。

でも、学校まで引き返す勇気はなくて、モヤモヤした気持ちを抱えたまま駅前のチェーンのカフェに入ってアイスティーを飲んでいた。

時間を稼ぐようにちまちまとゆっくり飲んでいたアイスティーがなくなって、そろそろ腰をあげなければいけない。

ふーたんからの電話は、ちょうどそんなタイミングだった。


「やっぱり、もう帰ってるよね」

歩きながら話しているらしいふーたんの周りから、ざわざわと空気の揺れる気配がする。


「あー、うん。実は……」

自分の居場所を白状しようとすると、同じタイミングでふーたんがまた話し始めた。


「今あたし、部活が終わって学校出たところなんだけどね。ジャノンボーイ、まだ校門前で美姫のこと待ってるよ?」

「え……?」

嘘だ。だって、あれからもう1時間も経ってる。

部活をしてないあたしが、授業後それだけ時間が過ぎても出てこないのはどう考えたっておかしいのに。