「ケンカとか、そういうのじゃ……」

「じゃぁ、どうしてそんな浮かない顔してるの?あの子が待ってたら、美姫、いつもはもっと嬉しそうじゃん」

ふーたんが、あたしの前に回り込んで顔を覗き込んでくる。


好奇心半分、心配半分。

そんな目であたしを見てくるふーたんから、顔をそらした。


「とにかく、今日は用事があるの」

肩に置かれたふーたんの手をそっと振り払う。

土曜日の文化祭でのできごとをふーたんに話せば少しは楽になるのかな。

でも、話したところで、あたしが仁織くんを傷つけた事実は消えない。

ふーたんを盾にして隠れると、その肩越しに、仁織くんを盗み見る。

携帯を弄りながら、ときどき高等部の校舎に視線を向ける彼の様子は、普段と変わらないように見える。

遠くからその姿をそっと見つめながら、どうして今日ここに来たんだろうと思った。

少し赤くなっていた彼の目や、ぎこちない笑顔を思い出したら、胸がズキンと痛む。