「あたし、仁織くんとは付き合えない」

冷たい声でそう言うと、仁織くんが表情を強張らせた。

傷付いたように揺れるダークブラウンの瞳に、あたしの胸もズキリと痛くなる。


「中学生なんて、まだ子どもだし。仁織くんのこと、恋愛対象として好きなんて思えない」


今こんなこと言ったら、絶対後悔する。

それがわかっているのに、どうしても止められなかった。

苛立ちと、元カノへの嫉妬と八つ当たりから漏れたあたしの言葉。

それを聞いた仁織くんの表情が、傷付いたように歪む。

彼の瞳が翳るのを見て、あたしもひどく哀しくなった。

だけど、変な意地が邪魔をして、今突きつけた言葉が「嘘だ」とも「ごめん」とも言えなかった。


「わかった……」

しばらくして、仁織くんがぽつりとつぶやく。


「美姫ちゃんからしたら、ただのガキにしか見えないのに。いつまでもしつこくごめんね」

顔をあげた彼が、いつもとは違う、取り繕ったような表情で笑いかけてくる。