仁織くんの前から逃げ出した本当の理由は、女の子たちの口から聞こえる彼の噂話を聞きたくなかったからで。
何かあったのか、という彼の心配が全く検討はずれなわけでもないから、反応に困る。
「なんか、店番入ったら急にお客さん増えて忙しくなっちゃって。何なんだろう、休む暇なくて、部活並みにハードなんだけど」
視線をそらした視界の端で、仁織くんが苦笑いを浮かべる。
お客さん増えたのは、仁織くんと燿くんがふたりして店番に入ってるせいだよ。
心の中だけで毒付いて、キュッと唇を噛む。
「あ、そうだ。美姫ちゃん、これ」
うつむいていると、仁織くんがあたしに何か差し出してきた。
ちらっと視線を向けると、それは白のプラスチックのパックだった。
割り箸が一膳、輪ゴムで留められている。
中身はたぶん、仁織くんのクラスの焼きそば。
顔を上げると、ほとんど同じ高さで仁織くんと目が合った。
「あと20分くらいで店番終わるから、そうしたら文化祭一緒に回ろ。たぶん、高等部に繋がる裏庭のベンチは空いてると思うから、これ食べながらそこで待ってて」



