「急に呼び出したりしてごめんね」
あたしの前で、おそらくほぼ初対面と思われる同学年の男子が、俯きながら照れ臭そうに横髪を弄る。
「いえ、別に……」
高等部と中等部の校舎を繋ぐ中庭。
用がなければめったに訪れることのないこの場所に呼び出されたときから、彼の用事が何かってことくらい想像がついてる。
「藤村さん、彼氏と別れたんだよね?俺、藤村さんのことずっといいなって思ってて。それで……」
俯いたままの彼の告白を聞きながら、ほらやっぱりって思った。
「よかったら俺と付き合ってくれない?」
彼が一生懸命好意を伝えてくれること。
そのこと自体は嬉しいと思う。
だけど、あたしは彼のことをよく知らない。
話すのも、あたしが覚えてる限り今が初めてだと思う。
だったら彼は、どのタイミングで、あたしのどこが好きになったの?
「今井くん、だっけ?」
「うん」
名前を呼ぶと、彼が嬉しそうにぱっと顔をあげた。
そのとき、ふと気づく。
そういえばこのひと。
バスケ部かなんかで、同じクラスのしーちゃんがかっこいいって言ってたひとだ。
人あたりがよくて優しいけど、いろんな女の子と仲良いんだってしーちゃんがちょっとぼやいてたっけ。
仲良い女の子が多いのに、どうしてあたし?
そう思いながら、極力無表情で今井くんに訊ねてみる。