春の扉 ~この手を離すとき~


「あんなに大勢の前で……。私がどれだけ恥ずかしかったか分かる? 」


考えられないというように、この人は大袈裟に首をふった。

やっぱり体育館にいたんだ。
あんなところ、絶対に見られたくはないのに。


「あなた、まさか本当に付き合ってなんていないでしょうね? 」

「……誰と付き合おうとお母さんには関係ないでしょ? 」


わたしの気持ちよりも、自分が恥ずかしかったという理由で反対してくることが理解できない。


「その口の聞き方はなに? 関係ないわけないでしょっ! あなたの品格まで疑われてしまうのよ? 心配なのが分からないの? 」


品格? 心配?

母親らしいことなんて何一つしてないくせに。