春の扉 ~この手を離すとき~


「あー、かったりぃ」

「みんなが健太郎のことを心配しているのが分からないの? 」

「はいはい。……美桜、少し待っててくれるよな? 」


訴える智香を見ずに健太郎くんはわたしだけに話しかける。


「ごめん、1人で帰るから」

「すぐに終わるって」

「1人で帰りたいの。じゃあね」


しつこく粘ってくる健太郎くん。
お互いが意地になっているようにしか思えない。

わたしは顔を伏せたまま、無理矢理に健太郎くんの横を抜けると、逃げるように教室をあとにした。