春の扉 ~この手を離すとき~


放課後、健太郎くんがやってくる前に急いで教室を出ようと思ったけれど、入り口のところでばったりと健太郎くんと鉢合わせしてしまった。

気まずい空気がわたしたちの間に流れた。


「あー、もしかして俺を迎えにこようとしてた? 」


この空気を壊すように健太郎くんが明るく振る舞うけれど、無理がある。
それに健太郎くんへのバレンタインのチョコは用意していないし、あげるつもりもなかったし。
変に期待をされても困ってしまう。


「ごめんなさい。……わたし1人で帰るから」

「いいじゃん、一緒に帰ろうぜ」


わたしは健太郎くんの側を通り抜けようとしたけれど、前を塞がれてしまった。


「健太郎、顧問とキャプテンが話があるから部室に来いって」


そんなわたしたちの後ろから智香が不機嫌そうに声をかけてきた。

ずっと休んでいる健太郎くんが呼び出しされるのは、当然のことだと思う。