春の扉 ~この手を離すとき~


あれ、……どうして?


聞こうと思うと気が引けてしまう。


わたしは先生のなんなのだろう?
好きだって言われたことはないけれど、でも気持ちは繋がっているんだよね?


目に見えないもの。
形のないもの。


たった今だって確かに感じられていたのに。


“言葉”がないだけで急に不安になってくるなんて。



わたしは左手で右手の甲をしっかりと包んだ。


『僕以外に触れさせるのは禁止だからね』


大丈夫。
だって先生とわたしの気持ちは同じなんだから。



「ところでさぁ、智香とはちゃんと話できたのー?」

「ううん、まだだよ」


『智香』の名前に心の重みが復活してしまった。


あれから健太郎くんと智香とわたしの関係は悪化する一方で。


健太郎くんは先生のことを警戒しているのか、放課後は毎日教室までわたしを迎えに来て、強制的に連れて帰らされていた。

それは部活を休むことを意味していて。