春の扉 ~この手を離すとき~


「なになに? どうしたの? 」


近寄ってきた文乃が興味津々に聞いてきた。


「あ、えーっと。前回のテスト順位下がっていたから、学年末はがんばれって」

「うわ、優等生は期待されちゃってるねー」


何の疑問ももたなかった文乃は、同情するような目でわたしを見てくる。



「それにしても咲久也先生はモッテモテだね。今日は何人から告白されちゃうんだろ? 」

「え? 告白? 」

「そりゃそうでしょ。彼女がいてもおかしくないしさー」


そっか、……そうだよね。

先生のことを好きな人はたくさんいそう。
今だって囲まれていたし。

先生を見送りながら、文乃がつまらなそうに唇をとがらせている。
少しだけ純輔に同情してしまう。
でもこんな文乃が純輔は好きなんだろうな。


でも、……彼女、か。
たしかに先生に彼女がいてもおかしくはないけれど。


その存在を考えたこともなかった。