まばたきをすればきっと涙がこぼれ落ちてしまう。手でパタパタと乾かしながら歩いていると、前からやってきた通行人が数歩前で止まった。


通行の邪魔になったと思い、軽く会釈をしながら「すみません」と道を譲ったけれど、その人は避けたわたしの前に来てピタリと足を止めた。


「こんな時間に1人で帰るのはだめだって言ったよね? 」


その声に思わず顔をあげると、涙がぽろぽろっとこぼれ落ちた。
そのとたん、にじんでいた世界は一瞬で終わり、目の前には会いたかった人の姿がはっきりと見えた。


「先生だって、……咲久也先生だって、こんな時間なのに何をしているんですか? 」


泣いているのはバレてしまっているけれど、わざと呆れたような口調で聞いてみた。


「こんな時間に美桜を1人で帰らせるわけにはいかないからね」


当然でしょ?という顔をして先生はわたしの手を取ると、しっかりと握って引っ張りはじめた。

うん、とうなずいたわたしの目からまた涙がぽろぽろとこぼれ落ちていく。