「お金を貢がされているって理解しながらも明さんから離れられなくて、泥沼の中にいる感覚?」


あたしは返事のない相手に話かける。


ベッドから立ち上がり、クローゼットを開けた。


使える物がないかと探していると、青いビニールの荷物紐が出て来た。


「お金があれば明さんは一緒にいて楽しい時間をくれる。だけどさぁ、1時間につき1万円の価値なんてないよ? だけど奏はそれすらも考えられなくなってたんだよね? いくら明さんにつぎ込んだのか知らないけど、後戻りができなくなったんでしょう?」


あたしは話しかけながらカーテンレールに紐を引っかけた。


途中で外れたりしないよう、しっかりと結んで輪っかを作る。


あたしは奏の顔を思い出していた。


あたしからお金を奪う時の必死の形相。


それは、明さんがいつかきっと自分を好きになってくれると信じていたからだったのかもしれない。


「明さんは奏の事が好きなんじゃないよ? 明さんが好きなのはね、奏がくれるお金だったんだよ?」


あたしは幼子に言い聞かせるようにしてそう呟いた。


どこかにいる奏の魂に届けばいいなと思いながら。


「あたしの今の心はとっても重たいよ。イジメられていた時と同じ感覚。とっても重たくて、もう二度と這い上がれない泥沼に足を取られている感じ」


あたしは椅子の上に立ち、ロープに頭を入れた。


何度かロープを引っ張ってみる。


体重をかけても大丈夫そうだ。


「あたしが手首を切ったあの時もね、今と同じ気持ちだったよ」


あたしはそう呟くと勢いよく椅子を蹴ったのだった……。