「私にとっては、あの雪の道を一歩づつ踏みしめて歩いた駅までの道のりが全ての始まりだった。少なくとも、あの時はそう信じ込んでいた。私は単純に居場所がほしかった。自由になりたかった。ただ安心して眠れればそれだけでよかった。制服姿で始発にのって、夢みたいな気持ちで彼が待つ駅に一時間半かけて電車を乗り継いだ。私は行く場所があるということが、そこで待っていてくれる人がいるという事が、どんなに安心できるかを知ったわ。彼の腕のなかだけは永遠だったし、それは私にとってなくてはならないものだった。今でも、形は変わっちゃったけど感謝している。」

 
 姉が家を出たその日の夜、母は随分と遅くまで起きて帰らない姉を待っていた。少し派手なパジャマ姿で待つ、普段はとても気丈なはずの母の後ろ姿に、私は声を掛けることができなかった。
 あの雪のみちで、一瞬でも、母の顔が浮かんだだろうか。こんな今でさえ、私はそんな事さえ聞く事ができなかった。