「もぅずいぶん小さな頃からこの家に居心地の悪さを感じてた。拘束されることにも、縛られることにも、学校の集団行動にも。
ママもパパも大好きなのに、どうしたって私は二人のいい子にはなれなかった。どこにいたってうまく呼吸ができなくて、苦しくて吐きそうだった。大人のエゴも、子供のわがままも、自分自身にも。
いつも思ってた、あぁ、早く日が暮れて夜がきて、あの明け方の特別な空間でなら、私も楽になれるのにって。……なんだか病的よね。」
 姉はそう言って少し悪戯っぽく笑ってみせた。
 「自由の意味さえろくに知りもしなかったのにね…」
まつ毛を伏せてそう呟く姉の横顔は、青白い光に包まれて驚く程きれいに見えた。
 「なんだかはみだしてないと不安で、いつも無茶しては親に迷惑掛けてた。こんなはずじゃなかったと思う反面、じゃぁどんなはずだったのか聞かれたらわかんなくて、やっぱり道を踏み外し続けて私はどんどん自分の居場所を自ら汚していった。もしかしたら、無意識のうちにわざと居心地を悪くしてたのかもしれなぃ。そうやって、どこか遠くの、私の事なんて誰も知らない所へ行こうとしてたのかな。今となっては、自分でもわからない年になっちゃったけど。」