姉は柵に前かがんで遠くの方を見つめ目を細めている。柵の向こうに投げ出された片手にもっている飲みかけのビールをプラプラと揺らす度に、中の液体がトップトップと重い音を鳴らした。
私は半分くらいになったタバコを自室から持ってきたチープな灰皿にもみけしてから、上の方を見上げてみたらそこには空ではなく、藤の草がいよいよ茂り始めていた。夏になれば葡萄みたぃな藤の花が魅惑の香りをまとって垂れ下がる。
私は視線を頭上から姉の背中に戻した。
あの頃も、よくこんな風にベランダでいつまでも話こんでは二人で笑ったものだ。両親を起こさぬように声を抑える程笑いが込み上げて、肩を震わせて堪えたりした。
姉がそうやって無邪気に笑うと私はなんだか安心して、意味もなく大丈夫だと思えた。
だけどそれは、姉のふと見せる自分を戒めるような厳しい目が、もぅ私なんかじゃ助けられないかもしれない、そんな風に思わせて不安が暗く背後からなだれこむのを払拭する慰めでしかなかったのかもしれなかった。新しいビールのプルトップとあけてから、私は姉の背中に言った。 「ねぇ、あの頃の事、聞かせてよ。」
ゆっくりと振り向いて柵にもたれた姉の向こう側に、かすかな太陽の気配を感じた。