夏「棗さんは人が変わったように優しく笑って
手当してくれた。
その日は雨も降ってて濡れた俺は棗さんの
家にお邪魔して暖をとってたんだ。
その時、二階から降りてきてタオルを
渡してくれたのが百合だったんだ…」
あれ?そんな事あったけ?
よく怪我人を連れてくる人ではあったけど
こんな人はいなかったはず…
夏「俺はその時…怖がらずに笑いかけてくれた
お前に惚れたんだよ…」
惚れた?4歳のガキにですか?
11歳も離れてるよね?
なんでそんな事になってるの?
夏「そん時俺は聞いた…俺が怖くないのかって
そしたらお前はこう言ったんだ…
『お兄ちゃんは悪い人じゃない
お父さんが連れてきた人だから』って」
確かに…お父さんが連れてくる人は
見た目は怖くても中身は怖くない
とても優しい笑みを返してくれる人達だった。
この人も、たぶんその1人なんだ
夏「俺はずっと迷ってたんだ…
自分の家を次ぐことを…
それを決心させてくれたのは…お前だ」
な、なんかいい話に聞こえるけど
私はそれを覚えてないから
何にも意味ないんじゃ…
夏「…まぁ、ゆっくりでいい…その時の約束を
思い出してくれればな」
約束…私はこの人と約束したの?
なんで、そんなこと…
どんな約束をしたの?
自分のことなのに…わからない
夏「百合、これはこれからの約束だ
もう自分を隠すな…少なくとも俺の前では
普段のお前でいてくれ」
そっと私の背中に回ってきた手は
少しだけ父に似ていた。
そのせいだろうか…最後に父が抱きしめてくれた
時のことを思い出してしまったのは…
流れそうになった涙を私は止めた。
人の前で弱みなんて見せちゃ駄目
また同情されてしまう。
あの目で見られるのは嫌だ
車が止まり、いつの間にかおりた
椿さんが車のドアを開けてくれた。
どうやらマンションのようだけど、
ここって結構高いマンションなんじゃ…
夏風がエレベーターに乗ると
2人は『ここで』といいながら
エレベーターのドアをしめた。
2人になった私達はただ黙って
目的の階に付くのを待っていた。
そして付いたのは驚くべき事に最上階…
迷うことなく進んでいくと
最上階はこの部屋以外ないようだった。
カードを差し込み中にはいると
夏風は私を黒色のソファに座らせた。
夏「コーヒーは飲めるか?」
「あ、はい」
甘い物は好きだけどコーヒーも好きだ
まぁ簡単に言えばどちらもいける。
戻ってきた夏風が持ってきたのは
黒いコップだった。
私はそれを見て笑ってしまった
「フフ」
私が笑うと夏風は何故か
口を開けたまま固まってしまった。

